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総ざらい!アンジュー帝国史 その3

【カペー】総ざらい!アンジュー帝国史【プランタジネット

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アンジュー帝国史まとめその3です。手っ取り早く読みたい方は太字だけどうぞ!

前回分はこちらです。

 

akahigerobin.hateblo.jp

その3 葉が落ちるように(1174~1186)

(1)反目する兄と弟

1173~74年の大反乱後、若ヘンリには相変わらず地位に見合う実権も領地もなかった。これと対照的だったのが弟のリチャードで、彼は母の後継者として、領地アキテーヌの統治を進めていた。このことに若ヘンリは嫉妬し、二人の間に不和が生じた。

1182年、兄弟間の対立を解消するため、ヘンリ2世はリチャード・ジェフリーに若ヘンリに対する臣従礼を要求した。

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ジェフリーの治めるブルターニュはもともとノルマンディーの宗主下にあるため、ジェフリーはこれを承諾。しかしリチャードは、「アキテーヌ公の上位に立つのはフランス王だけ」としてこれを拒絶。アキテーヌに戻った。

結局若ヘンリとジェフリーはアキテーヌの反乱諸侯を支援して同地に侵攻。リチャードは父に支援を求め、一方の若ヘンリは義弟でもあるフランス王フィリップ2世に援軍を要請した。

この時フランスでは1180年にルイ7世が崩御し、息子フィリップが跡を継いでいた。策略に長けたフィリップはアンジュー帝国の解体を目標に掲げ、アメとムチを駆使しながらプランタジネット家と対峙することになる。この反乱においては、彼は傭兵を送って義兄若ヘンリを支援した。

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しかし戦争中、若ヘンリは赤痢にかかって死去。彼は政治家としての才能には乏しかったが、気さくで寛大な人柄が周囲に愛され、その死は父親をはじめ多くの人に悼まれたという。

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(2)ジェフリーの反抗、フィリップの野心

若ヘンリの死後、ヘンリ2世は相続問題の再編を試みた。1183年、ヘンリは最年長の息子となったリチャードをイングランドやノルマンディーの相続人とし、その代わりにアキテーヌをジョンに譲るよう求めた。

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しかしリチャードはこれに反抗。彼としては、ずっと治めてきたアキテーヌを手放したくはないし、兄のように父に縛られたくはなかった。何より「アキテーヌは母アリエノールから受け継いだ領地、それを父親の命で奪われる理由はない」と主張。リチャードはその場を退出してアキテーヌに戻り「自分以外の誰もアキテーヌ公とは認めない」と意思を示した。

これに怒ったヘンリはジョンにアキテーヌ侵攻の許可を出し、これにジェフリーも参加。一方のリチャードはジェフリーの領地ブルターニュを攻めてこれに対抗した。

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結局、1184年のクリスマスで3兄弟の和解がなされた。さらにヘンリはリチャードをなだめるため、またアキテーヌ問題にカタをつけるため、幽閉中だったアリエノールを一時的に解放。リチャードは母に臣従礼をしてアキテーヌにおける彼女の宗主権を認め、いったんその場は収まった。

しかし火種はなくならなかった。アイルランド王の地位が約束されていたジョンは現状に満足していたが、ジェフリーは兄に対抗するためアンジューの相続権を要求。それを叶えるため、フランス宮廷に接近していく。

さて、フィリップ2世は当初ヘンリ2世とは協調関係を築いていた。これはフランドル伯、シャンパーニュ伯らフランス東部の諸侯に対抗するためだったが、1180年にはシャンパーニュ伯と和解し、1185年にはフランドル伯に勝利し、彼らの脅威はなくなった。その後、フィリップはプランタジネット家に対し攻勢に出るようになる。

そのために彼が用いた策が、家族の分断を利用することだった。パリに滞在したジェフリーもフィリップに親しくもてなされたが、パリ滞在中の1186年、ジェフリーは槍試合の事故で死去するのだった。

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残る息子はジョンとリチャードの2人。順番から言えば、ヘンリの後継者にはリチャードがなるはずだが、ヘンリはそれを明言することはなく時が過ぎていく。一方のフランス宮廷では国王フィリップが付け入る隙を窺っている。

プランタジネット家をめぐる内乱は、いよいよ最終局面を迎えるのだった。

 

つづく。