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歴史関連のイラストや漫画、コラムなど。好きな分野は、中世英仏、絶対王政、イスラーム、中国王朝。

中世英仏漫画 ししそん 第1章 2-3

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★本作品中の価値観は中世西欧のものを反映させておりますが、あくまで時代性の反映であり、特定のジェンダーを持つ方々を貶める意図はありません。

f:id:clanker208:20211021181302j:plain《解説》

・リチャード

のちの獅子心王ライオンハート)。彼はアリエノールの最愛の子供で、「Great one」(英文書でしか読んでないので原語は不明)と呼んで可愛がっていたそうだ。

アキテーヌ

結局どっちがアキテーヌ公なの?という書き方ですが、名目上の公がアリエノール、実質上の公がリチャードという感じ。実際の統治はリチャードの采配に任されており、この点が実権のない若ヘンリをますますイライラさせていた。

・ポエム

アキテーヌでは吟遊詩人や宮廷詩の文化が発達し、リチャードも作詞作曲に優れた才能を持っていた。残ってる詩は「捕虜はつらいぜ」ソングと「お金がない」ソングだけだけど。

槍試合

馬上槍試合(トゥルノワ、トーナメント)とも。騎士の模擬戦で、娯楽兼腕試しの場として若者たちが熱中していた。下ネタではない。

・宛先が野郎

リチャードは映画「冬のライオン」をはじめ同性愛者と書かれる・イメージされることが多いが、実際どうだったのかについては色々議論されている。(リチャードフィリップ元カレ説を知ったのもこの映画だったなぁ)

一番の論拠は「ソドムの罪」を懺悔したことだが、それが男色(Sodomy)を指すか否かという点で学会の意見は割れているようだ。庶子がいるので少なくとも完全な同性愛者ではなかったようだけど。

ナバラ

ナバラピレネー山脈の南にあるスペインの国。隣国として、アキテーヌとは深い関係にあった。同じ吟遊詩人文化圏でもあるため、王族(公族)同士も気が合ったと思われる。くわしくは第2章にて。

中世英仏漫画 ししそん 第1章 2-2

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《解説》

・お嫁さんが来ないでしょ?

当時ジョンはモーリエンヌ・サヴォワ伯の娘との縁談が持ち上がっていたが、領地を持たないことが交渉のネックになっていたため、ヘンリからジョンへの領地の割譲はそれを受けての措置だった。

・痛い目

実際その通りだから困る。

・ちなみに

若ヘンリは一時ジョンを預かっていたらしいが、どんな感想を持ったかは不明。

アンジュー帝国

プランタジネット家(アンジュー家)が大陸・ブリテン島に持っていた領地を便宜的に総称したもの。当時そう呼ばれていたわけではない。

・南北フランスの個性の違い

(1)北フランス

言語はオイル語(現フランス語の源流)、法律はゲルマン法メイン、美術はゴシック、気質は集団主義的で武闘派、素朴な感じ。知的活動は聖職者メイン

(2)南フランス

言語はオック語、法律はローマ法メイン、美術はロマネスク、気質は個人主義的・芸術に長ける。知的活動は宮廷で広く行われ、とくに宮廷詩が発達。

等々の違いがあった。(アンリ・ルゴエレル著『プランタジネット家の人びと』より)

ちなみにオック語を話す南フランス地域を「オクシタニア」と呼び、有名な化粧品メーカー「ロクシタン」の名前はこれに由来している。

 

次回、いよいよ主役登場。

中世英仏漫画 ししそん 第1章 2-1

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《解説》

・甘やかしても……

ヘンリ2世は末っ子可愛さか、ジョンを甘やかしていたらしい。

ルイ7世がフィリップを甘やかしていたかどうかは不明だが、老いらくの子かつ待望の王子だったため、可愛がっていただろうことは想像に難くない。

ちなみにアリエノールもしっかりリチャードを甘やかしている。

・領地

1173年、ヘンリ2世は若ヘンリの相続する領地のうち、シノン、ミルボー、ルーダンの3城をジョンに割譲しようとした。これは若ヘンリの大反対を招き、さらに大事件を招くことになる。

・土地なし

ジョン王のあだ名「欠地王(Lackland)」というのは本来、治世中に領土を失ったためではなく、相続する領地がなかった王子時代のあだ名に由来する。ちなみに王としてのあだ名には「柔剣王」というのもある(なかなか戦に勝てなかったから)。

・どうでもいいけど

ヘンリ2世は手袋しない主義だったというのを最近本で読んで知った。まぁいいか、フィクションだし……。

中世英仏漫画 ししそん 第1章 1-4

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《解説》

・兄弟の話

旧約聖書屈指の不条理エピソード・カインとアベル

これについては、まさしく不条理を説いた寓話ではないかと自分は思っていますヤハウェが愛の神とされるのはキリスト教の成立後。旧約聖書ヤハウェは気まぐれで理不尽で、人類とは理屈の違う、きっぱり異なる存在と描かれている。

世の中には格差も不条理もあるが、そういうもんだから仕方ない。その起源を語る神話として、この話が挿入されているんじゃないかなと。

中世英仏漫画 ししそん 第1章 1-3

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《解説》

主君

中世西欧の支配階級の秩序は、いわゆる封建制(封建的主従関係)」で成り立っていた。 

封建制はあちこちの国にあるが、基本的には土地を媒介にした主従関係を指し、中世西欧では主君が家臣に封土(領地)を与え、家臣が軍役を果たす関係が成り立っていた(この点、日本の「御恩と奉公」に似ている)。これから何度も出てくる「臣従礼」はこの君臣関係を受け入れる行為を指している。

なお家臣が背いた場合、主君は忠誠義務違反を理由に領地を没収することも出来た。ただし、実現できるかどうかは主君側の実力次第。この頃のカペー家は主君とはいえ名義上の主君に過ぎず、力は諸侯たちの方が強かった。

ちなみに日本の封建制との違いは、

(1)主従関係はあくまで君臣間の「契約」で家臣からも主従関係を破棄できる

(2)複数の主君に仕えるのも可能

(3)軍役に40日間という日限が決まっている

などなど。

お祈り好き

もともと聖職者になる予定だったこともあり、ルイはとても敬虔な人物だった。しかしそれだけでなく、カペー家は力の弱さを補うために教会の権威を利用しており、「聖なる王」のイメージを作り出すことで各諸侯国に対し優位に立っていた。

例えばルイ9世をはじめカペー朝の歴代国王が十字軍に積極的だったのもこの方針に由来する。

・早めに引退

1-2で書いた通り若ヘンリは父の領地を共同統治することになっていたが、実際は何も実権を与えられず不満をくすぶらせていた。ちなみにこの時若ヘンリは18歳、ヘンリはそれより早い17歳でノルマンディー公になっている。

・領土を分配

1169年のモンミライユの和約では、アンジュー帝国を分割統治することが定められ、ヘンリの3人の息子(ヘンリ、リチャード、ジェフリー)が各国の領主としてルイ7世に臣従を誓った。

・神の贈り物

3度の結婚を経てようやく生まれたフィリップは、Dieudonne(=神の贈り物)というあだ名で呼ばれていた。

・幽閉

フィリップ2世の生涯をご存じの方なら納得の発言。ちなみにこの後ヘンリもアリエノールを幽閉しており、アキテーヌを確保したいだけなら確かに有効な手段ではある。それでもその方法を取らなかったのは、やはり男子を得ることが最優先事項だったからと考えられている。

中世英仏漫画 ししそん 第1章 1-2

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《解説》

アキテーヌ

左下の地図でごらんいただける通り、とてもデカい。単に広いだけでなく、生活必需品のワインや塩の産地であり、交易量の多い港町ラ・ロシェルがある、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラ巡礼への通り道など経済上の要所だった。

ルイとアリエノール

離婚したの最大の理由は男子が生まれなかったためだが、とにかく二人は性格が正反対。ルイは聖職者教育を受けた堅物(彼はもともと次男で、兄の急死によって即位した)、一方のアリエノールは情熱的な芸術家肌。男子が生まれても結婚生活はぎくしゃくしたんじゃないかと思う。

長男

実際は、ヘンリの上に長男ウィリアムがいるが、彼は3歳で亡くなったため、本作では彼を抜いて数えている。ウィリアムごめん。

若ヘンリ

この時の身分は王太子ではなく共同王(1172戴冠)。父方の所有地アンジュー、ノルマンディー、イングランドを共同統治することになっていた。

ヘンリの領地獲得

ヘンリの父親はアンジュー伯、母親はイングランド王女(兼ノルマンディー公女)。領土獲得歴は以下の通り。

1.父からノルマンディー、イングランドを相続

2.アリエノールと結婚しアキテーヌ統治権を得る

3.弟ジョフロワからアンジューの相続権を剥奪

4.ブルターニュ公女コンスタンスに三男ジェフリーを婿入りさせ、同公国を得る

で、1173年に至る。

子だくさん

アリエノールはルイとの間には2女しか設けなかったが、ヘンリとの間には毎年のように計8人の子供を産んだ(うち男5人、女3人)。相手でこうも変わるんかとビックリ。

過去形

ヘンリとアリエノールは、末子ジョンの誕生後(1167~)別居していた。

中世英仏漫画 ししそん 第1章 1-1 

中世英仏漫画 ししそん 第1章 1-1 f:id:clanker208:20210922102125j:plain《解説》

・王都パリ:パリがフランスの首都になったのはカペー朝の始祖ユーグ・カペーがパリ伯であったことに由来する。その子ロベール1世はパリに王宮を構え、代々の王が居住するようになった。

・和平:1169年のモンミライユの和約。ヘンリ2世がルイ7世に臣従を誓い、両者の武力衝突が収束した。内容の詳細は後述。

・地図:もちろん当時にこんな地図はない。なお実際の中世ヨーロッパの地図はこんな感じ。f:id:clanker208:20210922100217j:plainこれは11世紀アングロサクソンの世界地図。黒海ギリシア・イタリアなど、地中海沿岸の描写はおおむね正確だ。よく見ると東の中国らしき所に川が2本あったり日本ぽい島があったり、意外と東方について情報も入って来ていたのかもしれない。

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こちらはキリスト教的理念に基づいた概念的な世界地図(TO図)。上半分がアジア、左下がヨーロッパ、右下がアフリカで、T字状の地中海で区切られている。中央にあるのはは聖都イェルサレム。当時の人たちにとって、イェルサレムは世界の中心。そのことを考えると、何度も十字軍が派遣されたのもむべなるかなと思う。

★図番出典:いずれもThe Medieval World:An Illustlated Atlas(Nationl Geographic Society,2009)