中世英仏漫画 ししそん 第1章 6-2
本作はびーえる漫画ではありません。
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《解説》
・リチャードのパリ行き
作中だとホイホイつられたように見えるけど、まあギャグマンガ的演出なので実際はもっと複雑。
ジェフリーの死後、ヘンリとフィリップはジェフリーの領地ブルターニュをめぐって対立(こちらで少し触れてます)、1187年3月にいったん休戦が成立した。
当時リチャードはアキテーヌに隣接するトゥールーズを攻めていたが、休戦と自分は関係ないとして戦闘行為を継続したため、怒ったフィリップが国境地帯のベリーに進軍。これにヘンリが加わり、両王の間は一触即発の状態となった。
その後ランス大司教とフランドル伯の働きかけにより、リチャードは(ある意味すべての元凶なのだが)両王の調停に奔走、結局ヘンリとフィリップは2年間の休戦を結んだ。この時の働きがフィリップの歓心を買ったらしく、休戦の成立後、リチャードはパリに招かれしばらくそこで過ごしたそうだ。(参(4))
あれ、やっぱりホイホイついていった……?
・アリスとリチャードの結婚
1169年の婚約以来引き延ばしに引き延ばされてきたが、理由は個人的・政治的含め色々と考えられている。
ヘンリ的には……
両者の結婚によってリチャードがフランス王の後ろ盾を得られると困る。後はよく言われる話だが、アリスを自分の愛人にしてたので手放したくなかった。
リチャード的には……
上記の理由でアリスとの結婚に消極的、またドイツ皇帝フリードリヒ・バルバロッサの娘とのより有利な縁談が持ち上がっていたことも関係しているらしい(皇女の死で立ち消えたけど)。そもそも結婚自体にあまり興味がなかった説もある。
アリスは最初出そうかと思ったが今以上のカオスになるので番外編で描く予定……
・母上を……
アリエノールは1173年の大反乱後、イングランドでの幽閉生活が続いていた。解放されるのはヘンリの死後になる。
・気があるのかよもう!
リチャードのジェンダーについては前記事で簡単に解説してます。いろいろ議論されてる問題なので、いつかコラムでしっかり書きたいところ
中世英仏漫画 ししそん 第1章 6-1
新年あけましておめでとうございます。
昨年は拙ブログにご訪問いただき、ありがとうございました。
鈍行ですが地道に更新を続けていきますので、本年もよろしくお願いいたします。
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《解説》
・リチャード・フィリップの身長
タイトル画の二人は身長差が結構ありますが、リチャードは196cmとかなり大柄だったらしい。
一方のフィリップについてはよくわからず、佐藤賢一氏のフランス史本では小柄と書いてあるが、年代記には「背が高い」とあったり意見が割れている。後者はフィリップ付きの年代記作家が書いたので盛っている可能性もあるし、前者は今のところソース不明だしと結局よく分からない。同じく小柄と言われるジョンが170㎝くらいなので(遺体調査による)、170~180くらいかなと勝手に思っている。
・司法マニア
ジョンは国王時代、特に裁判に熱心で(王の職務の一つだった)、どんなに小さな案件でも介入し、的確な裁きをしたといわれている。
・人妻に……
やはり国王時代、ジョンは家臣の娘や妻に横恋慕することが多く、嫌がられていたそうだ。実際娘を手籠めにされた家臣が反乱(マグナ・カルタの奴)に加わっているので深刻である。
・まともな方から
生き残った二人に比べるとアクは弱いけど、雰囲気だけのヘンリ兄ちゃんと腹黒風見鶏のジェフリーがマトモと言えるかは分からん。まぁフィリップ視点だと義兄と親友だしね……
中世英仏漫画 ししそん 第1章 5-4
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《解説》
・ジェフリー
「冬のライオン」でもそんなセリフがあったけど、父は若ヘンリとジョンを可愛がって、母はリチャードを可愛がって、ジェフリーだけ何もないんだよね。そんなすねすね感も、反抗の一因だったかもしれない。
・ジェフリーとフィリップ
なんかべたべたしてますが、実際この二人は仲が良く(陰険な腹黒同士気が合ったのか)、パリではいつも一緒に行動していたうえ、ジェフリーの葬式中、フィリップは号泣して墓穴に飛び込みかけたらしい。フィリップのことだし、どこまで本気でどこまで演出か分からないけど、いずれにせよあんたそんなキャラだっけ?
ちなみに槍試合についてはこちらで書いてます。ちょっと意外だけど、ジェフリーも作詞したり槍試合大好きだったり、南方文化にどっぷりなタイプだった。
・ジェフリーの子供
この時点でジェフリーは長女アリエノール、長男アーサー(出生前)を設けていた。兄たちと違って、ちゃんと子供残してるのは(統治者として)偉いと思う……。
ちなみにアーサーは後で出てくるけど、かなり後なので出てくるまで書き切れるか……。いや、がんばる。
・親子鷲のタペストリー
伝承によると、ウィンチェスター宮殿には親鷲と4羽の子鷲が描かれた絵が飾ってあったそうだ。子鷲が寄ってたかって親鷲を襲い、なかでも一番小さい子鷲が親鷲の目をえぐろうとしている、といういかにもな図柄で、ヘンリはこの絵を自分と息子たちになぞらえていたそうだ。(参(13))
はい、画力が追いつきませんでした。
中世英仏漫画 ししそん 第1章 5-3
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《解説》
・ジェフリーの挙動
ジェフリーの動きはわかりにくいが、行動目的は自分の領地であるブルターニュの独立を確保することだと思われる(参(10))。「全領地を掌握しておきたいヘンリと、自立したい息子たちとの対立」と、構図はみんな一緒なんだよね。
アキテーヌが広いせいかジェフリーはリチャードに対抗意識を持っており、領土上イーブンになるため、兄の相続分だったアンジューを手に入れようとしていた。(参(4))
この時アキテーヌを攻めたのも、アキテーヌでの兄の勢力を弱めるため?詳細はまだよくわからない。
・ヴェクサン問題
ヴェクサンは王領とノルマンディー公国の境界にある地方。ざっくり図示するとこんな感じ。(ルーアンはノルマンディーの首都、ジゾールはヴェクサンの要衝)
ご覧の通りお互いの領土・首都防衛に大きな影響を及ぼすため、フランス王もノルマンディー公もなんとかこの地域を確保したいと思っていた。
なお、ヴェクサンのうちフランス王所有のエリアはフレンチヴェクサン、ノルマンディー公所有のエリアはノルマンヴェクサンと呼ぶ。ノルマンヴェクサンは、フランス王女マルグリットが若ヘンリに嫁ぐ時に持参してきたもので、作中のフィリップの発言はこれを受けてのもの。
ちなみにヘンリはアリスとリチャードの結婚を引き延ばしていたが、これは結婚によりヴェクサンがリチャードの手に渡るのを防ぎ、同地を確保するためと考えられている。ヘンリのセリフで「うちのガキ」とぼかしているのも、アリスをジョンに嫁がせる計画があったから。
ヴェクサン問題はリチャードv.s.フィリップの時にも引き継がれるので、ヴェクサンとジゾールはしばしば出てくる地名です。
中世英仏漫画 ししそん 第1章 5-2
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《解説》
・若ヘンリV.S.リチャード
若ヘンリはリチャードの領地ポワトゥー(アキテーヌ北部)に侵攻。ヘンリは争いを止めるべくリチャードの側についてこれに参戦した。そこで若ヘンリが頼りにしたのが義弟であったフィリップ2世。彼は傭兵隊を送って義兄若ヘンリを支援した。
・若ヘンリの死
若ヘンリは上述の戦闘中に赤痢にかかり、父の許しを請う使者を送った。臨終の前に父子の和解は果たされ、ヘンリは息子の死を知ってかなり悲しんだそうだ(当時の文献には「王の威厳を捨てて」嘆いたと書かれている 参(13))。というか、実はヘンリはジョンより先に若ヘンリを偏愛していたんだよね。
この漫画だと若ヘンリが一方的に被害者っぽく見えるが、若ヘンリは若ヘンリで短慮でこらえ性がない性格&パパヘンリが統治のすべを教えようとしても怠け癖・無能が露呈したそうなので(辛辣! 参(10))、時期尚早と考える父⇔せっかちな息子と、ただただ噛み合わなかったんだろうな……。
ところで若ヘンリはアイドル型のキャラクターというか、頭空っぽなチャラ男でも(アイドルをdisるつもりはなくあくまで彼自身ね)美男で華やかでとにかく人気のあった人物なので、その死は彼を慕う騎士たちや民衆たちに広く悼まれたそうだ。
・ちなみに
フィリップの後ろにいる人物は司祭・年代記作家のリゴール。フィリップ2世の伝記を書いた人物で、この後もちょくちょく出てきます。
中世英仏漫画 ししそん 第1章 5-1
十字軍とか見てても思うけど、リチャードには人様のメンツを立てるという発想がつくづくないよね……。上司ならいいけど同僚や部下にはしたくないタイプだ。
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《解説》
・時系列
時期は1182年。若ヘンリは相変わらず実権がないうえに、妻マルグリットと武術指南のウィリアム・マーシャル(後で出てきます)が浮気したという噂も流れて、荒れに荒れていた(参考文献(4))。これに収拾をつけるべく、ヘンリは息子たちを集め、長男且つ後継者である若ヘンリに臣従を誓うようリチャード・ジェフリーに要求した。
・土地なし
この時はアイルランドがジョンに与えられる予定になっていたので、厳密にいうと土地なしではなかったりする(まあ、実際に支配してた土地はないけど)。
ちなみにジョンは当時イングランドで暮らしていたので、本当はこの場にはいない。
・僕は別に…
ジェフリーの治めていたブルターニュはヘンリが併合した土地なので、イングランド王・ノルマンディー公の宗主下にあった。よって、ヘンリ(父)の主張にも正当性があるのだ。
・リチャードの反論
リチャード曰く、「アキテーヌ公の上位者はフランス王だけ。だから父の要求に従う道理はない」。まぁ確かにそうなんだけど、若ヘンリ絡みでこれだけトラブルが続いてるんだから、表向きだけでも認めてやれよとちょっと思う。
とはいえ臣従礼をする=主君として領地に口出しするのを認める、ということになるので、曲者ぞろいのアキテーヌ諸侯と戦いながら統治に苦労してきたリチャードとしては認めがたかったんだろう。
・若ヘンリV.S.リチャード
このあと二人は開戦するが、実際はリチャードがアキテーヌに引っ込む前に
リ「はいはい臣従礼すればいいんだろ!してやるよ文句あっか!」
若「はぁ?お前なんかに臣従礼される筋合いないし!受け付けませ~んざまぁみろ!」
というお子様かあんたらレベルのやり取りがあった。これだからプランタジネット家は面白いんだぜ!
・空気は読まない
のちの十字軍でいかんなく発揮される特技である。