歴史おたくの作品倉庫

歴史関連のイラストや漫画、コラムなど。好きな分野は中世英仏、絶対王政、イスラーム、中国王朝。

中世英仏漫画 ししそん 第1章 7-2

リチャード・フィリップと言えばこのネタである。

★縦書き本を読む要領で、読む順番は右→左です。 

★画像が見づらい場合、新しいタブで開くと拡大表示できます。

f:id:clanker208:20220114193154j:plain

《解説》

・槍試合大好きブラザーズ

どれくらい好きかと言えば、若ヘンリはリチャードと一緒にアキテーヌの反乱を鎮圧中、槍試合に参加するため帰ってしまったほど、ジェフリーはそれこそ命を落とすほど。ちなみにジョンは修道院育ちで、兄たちのように騎士道文化の影響はあまり受けていない。

 

・フィリップと槍試合

弱小王家だったカペー家は神聖な王のイメージを作り出すことで諸侯たちを従えており、教会を支持することもその一環だった。

教会は当時流行していた槍試合について、人道的な見地から反対しており(ジェフリーのように命を落とすものも少なくなく、戦場での死者より多かったらしい)、フィリップもこの見解に従っていた。実際彼は槍試合に参加したことはないし、息子のルイ8世には参加することも観戦することも禁じていた。

 

・武芸が苦手

フィリップはよく馴れた馬にしか乗れなかったりすぐ計略に引っかかったりと武芸・軍事方面は苦手だったと思われる(戦略や築城はうまいけど)。

 

・ベッド

和平が成ると、アキテーヌ公でイングランド王子であるリチャードは、フランス王フィリップと休戦を結んだ。王はリチャードに非常な敬意を払い、彼らは毎日同じテーブル、同じ皿から食べ、そして夜もベッドが二人を分かつことはなかった。

フランス王はリチャードを彼自身の魂のように愛し、互いの間に深い愛情が生じた。彼らの間に生じた愛情の激しさのため、ヘンリ2世は言葉を失うほど驚き、これはどうしたことかと不思議に思った。

(ホヴデンのロジャー『ヘンリ2世伝』 参(4)より和訳)

……この一節が後世やたらと食いつかれ、リチャードとフィリップは一時(主に20世紀後半)公式カップルのように扱われ、いろんな映画やドラマで元カレ説が採用される羽目になった(映画「冬のライオン」、ドラマ「Devil's crown」など)。

 

が、事実は異なる。

 

当時同性同士で同じベッドで寝ることは特におかしなことではなく、例えば親子ヘンリも同じベッドで休んでいる。ちなみに彼ら親子の描写にも「同じテーブルで食べ、同じベッドで眠り」とあることから、友好関係を示す慣用表現で、特別な含みはないことが分かる。 

ということで、両者がベッドを共にしていたのは同盟関係を示す政治的ジェスチャーのようだ。

 

「愛」もまぁ友愛やら敬愛やらいろいろある。ちなみにラテン語の原文で使われていた語は「Diligo」で羅和辞典を引いたら「尊重する、高く評価する、愛する」とあったので、やはり敬愛寄りの感情のようだ。

 

まあ、最大の宿敵が元恋人でしかも婚約者の弟で……ってお話としては面白いのは分かる。(うちの作品も結局ネタにしてるしね(-ω-))

それより、いつもいつもリチャードに巻き込まれてるフィリップが気の毒というか面白い。